ワキガに気づくのは難しい
ワキガが生じる原因とは
ワキガは、ワキから出る汗が体表に存在する細菌と反応することによって生じます。
ワキの真皮の下には、汗を分泌する部位があります。
・エクリン汗腺
・アポクリン汗腺
の2種類です。
エクリン汗腺は全身にあり、上昇した体温を調節するために汗を分泌します。
エクリン汗腺から出る汗の成分は、わずかな塩分以外は水分です。このため、臭いはありません。
他方、アポクリン汗腺はワキのほかに外耳道、鼻、へそ周辺、陰部・肛門付近にあります。
アポクリン汗腺は毛穴とつながっており、汗は毛穴を通って体表に出てきます。
アポクリン汗腺から出る汗に多く含まれるのはタンパク質や脂質です。この汗が毛に付着し、また毛穴や皮膚の表面に付着すると、細菌がこれらの物質を分解するために強い臭いが生じるのです。
つまり、ワキガのポイントは「アポクリン汗腺から汗が出る」「細菌がアポクリン汗腺からの汗を分解する」ということです。
代表的なワキガの治療法
では、アポクリン汗腺に由来する汗によるワキガに対してどのように対策を打てばよいのでしょうか? こちらでは美容外科や美容形成外科、形成外科などでできるワキガの代表的な治療法を3例ご紹介しましょう。
▼ワキガ治療法 例1:抗菌剤など外用薬の塗布
医師の診断により、手術するほどの症状ではないけれども治療が必要となった場合、外用薬が処方されることがあります。ワキにある細菌を少なくし、アポクリン汗腺からの汗の分解が行われないようにするためです。
また、ワキの清潔を保つための日常生活での工夫も指導もあり得ます。
・着替えをよくする
・服に直接汗染みができないようにワキ用の汗パッドを使うようにする
・定期的に(手洗いのタイミングなどで)デオドラントシートでワキを拭く
・入浴を欠かさない
・入浴で使う身体用のスポンジやナイロンタオル、ブラシなどを交換する、交換の頻度を上げる
▼ワキガ治療法 例2:ボツリヌス菌注入
ボツリヌス菌注射は、ボツリヌス菌の毒素をワキに注入するという治療法です。
ボツリヌス菌の毒素によって神経の動きが不活発になります。このため、エクリン汗腺とアポクリン汗腺へ発汗するように命令を出す神経伝達が阻害され、発汗しにくくなるのです。
▼ワキガ治療法 例3:反転剪除法
ワキガを手術により治療する「反転剪除法(はんてんせんじょほう)」という方法もあります。ワキを切開し、直視下でアポクリン汗腺を除去していく手術です。
局所麻酔の後、ワキのちょうど真ん中あたりのシワのラインに沿って約4cm切開します。続いて切開した皮膚を反転させ(裏返しにして)、見えるアポクリン汗腺を取り除いていくのです。
入院の必要はなく、手術後に帰宅できます。
ワキガ治療法のメリット・デメリット
▼ボツリヌス菌注入のメリット
ボツリヌス菌注入のメリットは、注射であるため手術のように傷跡が残らず、手軽にできるという点です。
スポーツ等の習慣があり頻繁に汗をかく場合は別ですが、多く汗をかいてしまう時期の夏さえのり切れれば大丈夫という方は少なくないでしょう。一時的に対処できればいいという方には好都合となりえる治療法です。
▼ボツリヌス菌注入のデメリット
ボツリヌス菌注入のデメリットの一つ目は、完全に発汗しなくなるわけではないという点です。臭いの原因であるアポクリン汗腺からの発汗量が以前に比べて少なくなったとしても、元々臭いがかなり強い場合には効果を感じにくいことがあります。特に、元々多汗症ぎみであるなら、ボツリヌス菌注入では十分とはいえない恐れがあり得ます。
また、持続時間が最大で半年程度である点です。
夏場などの短期間だけ、あるいは何かの行事やイベントに関連した一定期間だけワキガを抑えられればいいという方の場合ならこれでもかまわないかもしれません。しかし、本当はワキガがなくなってほしいのに、毎年その場しのぎ的にボツリヌス菌を注入するのであれば、効率が良いとは言いがたいです。
手術は一度で済みますが、ボツリヌス菌注入の場合、根本的な原因であるアポクリン汗腺をなくすわけではないので、トータルで見ると二度手間、三度手間になってしまうのも悩ましい点です。
▼反転剪除法のメリット
反転剪除法のメリットは、基本的に治療が比較的短期間で終了することです。反転剪除法では、ワキガの根本的な原因であるアポクリン汗腺を取り去ることができます。ボツリヌス菌注入のように定期的に通院する必要がないのです。
自分のワキガに気づかない方の場合、ワキガが再発しているのではないかという不安に悩まなくてよくなりますね。
また、本来の目的とは異なりますが、脱毛を伴う治療法であることがワキの毛に悩む方にはメリットとなります。
アポクリン汗腺の位置する皮膚の層は毛根と同程度です。アポクリン汗腺を切除する際に毛根も同時に切除することになります。毛根が切除された手術箇所からは新たに毛が生えてくることがありません。
▼反転剪除法のデメリット
反転剪除法のデメリットの1つめは、手術後に安静にしている必要がある点です。
手術後のアポクリン汗腺を切除した部分は切除部分より深い層とつながらなくなっています。1週間ほど経つと表皮側と皮下組織側の組織内で血管などが形成され、定着していきます。定着するまでを安静にしていなければならないのはこのためです。(抜糸に1週間かかります。)
なお、安静にしていても何かの原因で細菌に感染してしまうと、定着までにさらに時間がかかることがあります。
2つめのデメリットは、手術直後から数カ月間は切開した傷跡が見えてしまうことです。ただし、時間の経過とともにしだいに傷跡は薄まり、一般的に半年程度を経過すると傷跡は目立たなくなります。
ワキガの治療法はどう選ぶ
特に強いワキガである場合、ボツリヌス菌注入または反転剪除法による手術から治療法を選択するのが一般的でした。
どちらの場合でもメリット・デメリットがあります。このため、総合的に判断することが大切です。
一般的な手術でも同様ですが、選ぶ際のポイントは「期間」と「費用」でしょう。
ワキガの手術でも1週間、状態によってはさらに安静にしておくべき期間が必要です。もし重量のある物を運んだり頻繁に腕を動かしたりする仕事をしている場合、1週間程度の休暇が取得できるかが分かれ目になります。
費用については、例えばヴェリテクリニックの場合、通常かかるワキガ治療の費用は、
・ボツリヌス菌注入(ワキ・手のひら・足裏):65,000円(税別)
・腋臭症反転剪除法:250,000円(税別)
となっています(麻酔除く)。
また、ボツリヌス菌注入の場合は、一時的な治療でよいかをよく検討する必要があります。
以上の点を考慮することで、ご自分の希望に合うワキガの治療法のイメージが固まってきます。
もし治療法や費用などについて疑問点がある場合は医師に詳しく問い合わせることが大切です。自分の身体に対して、特に悩みのある部分に対して働きかけていくには納得感があることが重要であるためです。
気になることやよくわからないこと、怖いと感じていることなどについてもぜひお話しいただければ、ワキガの心配や悩みに寄り添ってお手伝いができます。
周囲の方はかなり気になっているのに、当の本人だけが気づいていない。
そんな不思議な状態がしばしば生じるのがワキガです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか? また、そもそもなぜワキガという強い臭いが生じるのでしょうか?
▼ワキガに自分で気づけない理由は?
ワキガというほどではなくても、長時間にわたって暑い屋外で過ごしたりスポーツをしたりした後で、自分のワキの臭いが気になることはありますね。そんなあなたはワキガではない方かもしれません。
ふだんからワキガの臭いがしている場合、自分の臭いになれてしまっているためワキガに気づかないこともあるのです。いつも使っているシャンプーの臭いに気づかないことに似ていませんか? ほかにも例えば、海外からやってきた人が日本の空港や街角に立つと、日本食独特のしょうゆやみその臭いを感じることがあるそうです。これは日本で生まれ育った人が長期間海外で過ごした後で帰国した場合にも起こります。頻繁にかぐ臭いには、人間の嗅覚は反応が鈍くなってしまうのですね。
▼ワキガを他人が教えてくれない理由は?
「自分では気づかないとしても、他人がワキガを指摘してくれることはある」と思うかもしれません。しかし、すべてのケースでそうなるわけではありません。たしかに小学生などではワキガについて直截的に言及したりいじめに発展したりという恐れがあります。しかし、特に年齢が上がるにつれて他人の身体的特徴について物を言うことをはばかるようになってくるため、他人はわざわざ指摘しないことが多いのです。
大人の付き合いは一般的にオフィスでの時間が多いですが、空調の行き届いた職場環境では室温も快適で汗をかく機会が少ないです。電車などを利用する際には屋外を歩くために、夏など汗をかくことはあります。けれども、相手は、見知らぬ、一時だけ同じ車両に乗り合わせるだけの人。そんな相手に対して個人的な問題である指摘することは、ワキガの件でなくてもしませんよね。
▼ワキガに気づくには?
ワキガの有無を自分で判断することは難しく、他人もストレートに指摘してくれるとは限らないとなると、ワキガにどう気づいたらよいのでしょうか?
実は、ワキガは美容外科や形成外科での診療の対象となります。つまり「ワキガかどうかを調べる手順」が医学的に決められているのです。
ワキガの診断は、ワキにガーゼをはさんで行います。数分間はさんだままにして汗を染みこませたら、そのガーゼから臭う臭いの強さでワキガかどうかを判断します。
染みこませたガーゼの臭いが強かったり、ガーゼを使うまでもなく臭いが強かったりする場合には、手術による治療が検討されます。